Sunday, February 19, 2006

沈黙の新内閣(06-02-19)

イノさんへ

先日、ハーパーの大失策とは何か、デービッド・エマソンが報道陣を呆れさせたとはどういうことかというご質問をいただきました。 その答は今までもおおかた触れて参りましたので、このメールは二番煎じになりますが、一応繰り返してみます。

ハーパーさんが宰相の印綬を帯びてから2週間になりますが、その動きや意図するところは未だに不透明なままです。 もともと首相を志す野心など無かった理詰めの論客ですから、感情に訴えるタイプのカリスマ派ではありませんが、それにしても、目は般若のように冷たく、顔も謎めいた能面のようでは、ジャーナリストとしても掴み所がなく、メディアから「失策」という批判される所以です。 こうしたコミュニケーション不在は、発足したばかりのハーパー政権としてプラスになるとは思えませんが、首相だけではない、その閣僚も、ほとんどが口をつぐんでいます。 これも、閣議の申し合わせによるものか、あるいは緘口令がまだ解かれていないのか、よくわかりません。 次の議会が始まるのは4月。 それまでの6週間は、各大臣も、それぞれの省庁の次官や局長からコーチを受けて、議会のクェスチョンぺリオドに備えようとしているのでしょう。 それにしても今の無言の構えはいささか異常にみえます。

それを今は黙過しているメディアも、いつもならもっと騒ぐのでしょうが、今はトリノの冬季オリンピックの取材で手いっぱい。 スタッフも資材もトリノに傾注し、事に当たっていますから、オタワの政情が静かなのも、かえって具合がよいのかもしれません。 

それにしても、ハーパーさんがこの10日余りの間に所感らしきものを洩らしたのは一回だけ。 それもカメラの前で記者団に語るのではなく、総理府のスポークスマンが読み上げた文書による発表でした。 

デービッド・エマソンさんが、選挙後2週間で、自由党から保守党への鞍替えした問題についても、ハーパーさんが騒ぎを惹き起こした張本人であるにもかかわらず、プレスや選挙区からの攻撃に曝されているエマソンさんを別段積極的に擁護する姿勢もみせず、またそのごり押しを正当化しようともしていません。 問題が風化するのを待っているかのようです。

党から党へと渡り歩く議員も時たまいますが、半年や一年経ってからならともかく、2週間で飛び移るというのは、さすがに珍しい。

エマソンさんは、オンタリオのクィーンズ大学で経済学の博士号を取り、ブリティッシュコロンビア州政府の次官を勤めた人ですが、その後金融界に移り、さらにキャンフォーというBC州最大の森林関連会社の社長と、官界財界の尾根をつたってきたエリート。 その経歴をみても有能の士であることは判ります。

2004年の選挙の際は、時のマーティン首相の懇望で、バンクーバー市のキングスウェイの選挙区から自由党の旗のもとで出馬して当選。 直ちに産業大臣として入閣しました。  このキングスウェイという所は、左派に近い自由党や新民主党が強い所で、右派の保守党は50年以上も有権者から見放されています。 今回の選挙にしても然り。 自由党の候補として選挙に臨んだエマソンさんは保守候補を遠く退けて悠々当選。 しかし自由党そのものは、全国的に124対103と、保守党に惜敗したのでした。

ところで保守党が元来強いのは農村とか山間部などの地方。  大都市では弱いのです。 事実トロント、モントリオール、バンクーバーの三大都市では保守党は全滅でした。 これは由々しい事です。 国土は世界で2番目に広いとはいえ、3千万の人口の大半は都市部に集中している点で、カナダは都会人の国なのです。

ブリティッシュコロンビアの保守党は、今回の選挙でも地方から17人の当選者を出しました。 しかし大事なバンクーバーは空洞のまま。 そこでハーパー首相は、ひそかにバンクーバー市選出の自由党議員で前産業相のエマソンさんに電話を入れました。 「通商大臣のポストを提供するから乗り換えないか」と切り出しました。 選挙戦の間は保守党の悪口を散々言っていたエマソンさんですが、あっさりその勧めを受け入れました。 

2月6日総督官邸の玄関で待ち構えていた報道陣は、香港出身の夫人を伴って車から降り立ったエマソンさんに「なんで?」と驚いたわけです。 報道陣だけではありません。 保守党の長老達も、昨日の敵を今日の友として迎えた事にはつんぼ桟敷に置かれたままでした。

エマソンさんは党を乗り換えるに当たって、マーティンさんに電話で説明するつもりだったというのですが、マーティンさんの方では、いまだにその電話がかかってくるのを待っています。

エマソンさんの選挙区では、選挙運動に参加し、募金運動に協力した人達がショックを受け、憤慨しています。 「我々は自由党のために戦ったのだ」「自由党の選挙資金として寄付したのだから金を返せ」「辞任してもう一度選挙をやり直せ」と息巻いています。 

その選挙区は、有権者の半分が中国系です。 移民社会は大体において自由党と新民主党を支持します。 エマソン夫人が中国系とはいえ、自由党から保守党へ一夜にして変わったことについての不信感は2週間経っても収まりません。

エマソンさんは、「自分が大臣になれば選挙区のためになる」と辞める気配をみせません。 「もし政府のコミッショナーが倫理的に黒だという判定を出せば辞めましょう。 しかし選挙資金の97,000ドルを返せとはとんでもない話」と、草の根の怒りの声には耳を貸そうとはせず、高姿勢を崩しません。 

新民主党は、自由党政権を引き摺り落とした立役者ですが、そのレイトン党首も、今回はエマソンさんの引き摺り落しに一肌脱ごうと、
バンクーバーまでやってきて、火を煽ってています。 

そうした中にあって、ハーパーさんは泰然としていますが、保守党の功労者達を無視して、新政権を一存でスタートさせたツケはいずれまわってくることでしょう。

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