Saturday, June 30, 2007

カナダのシーク教徒 (2007/06/30)

カナダのシーク教徒

「先日イノさんがバンクーバーに出張で来られた折、インドの宗教や文化の影響が格段に強まっていることが印象に残ったようだね。  空港からタクシーでサレーの訪問先に向かう途中でも、インド人の運転手から話を聞き、往路に見られる市民や住宅地にもインド系の発展が目覚しいと目を見張られたようだ」

「インド系といえば、カナダのマスコミは『南アジア人』という呼び方をしているね。 パキスタンやスリランカの存在もあるからね。 しかし私にはインド人というとどうもターバンに髭というイメージがあるんだ。 私の偏見のせいなんだけれどもね。  しかし実際にターバンを頭に巻いているのはシーク教徒の人達であって、インド人の大部分はそうじゃないんだね。 ヒンドゥー教徒やイスラム教徒、仏教徒は全然別だ。 シーク教徒はインドの中の数パーセントに過ぎないんだって? そのまた一部がカナダに来ているわけだが、そのカナダ在住のシーク教徒は40万だそうだ。 それも大部分がバンクーバーとトロント周辺部に集まっている。 しかしあの独特のターバーンと髭はインドの存在感を強めるのにきわめて効果的だ」

「しかしカナダのシーク教徒の中には、インドの北西部にある故国、パンジャブを、インドから分離して独立させることを念願としている人達が居る。 ただその政治活動を進めるに当って、一部の過激分子が、『目的のためには暴力も辞せず』とテロリスト的感覚を煽っているのが問題だ」

「その独立の動きを抑えようとしたインディラ・ガンディー首相は1984年シークの護衛の放った凶弾に倒れたが、その暗殺者はパンジャブでは殉教者扱いされている。 そしてその翌年、トロント空港を飛び立ったエア・インディアのジャンボ機が大西洋上で爆発し墜落。 329人の犠牲者は殆どがインド系カナダ人だった。 これは『9/11』に次ぐ重大なテロ事件。 そして同時にバンクーバーから成田空港に到着したインド向け貨物が爆発。 空港の日本人職員が殉職した。 それが今日にいたるまで真相はつかめないまま迷宮入りになっている。 パンジャブをめぐる抗争にカナダが巻き込まれたことはショックだったが、容疑者も証拠不十分として釈放されたままだ。 シークの過激派はそれを英雄視しているのもショックだ」

「しかしそういう悲劇にも拘わらず、カナダにおけるシーク教徒の独立運動はとどまるところを知らない。 シーク教徒の中にも勿論暴力に反対する穏健派も居るのだが、前ブリティッシュコロンビアの州首相で連邦政府の有力閣僚だったドサンジュもその一人。 しかし以前過激派によって瀕死の重傷を負わされたことがある。 そして今も脅威に曝されているのだが、 過激派は『脅迫でなくて挑戦だ』と嘯いて依然穏健派を脅かしている」

「しかしカナダに住む40万のシーク教徒は、カナダの政治家にとって無視できない有権者だ。 票の行方は自分達に関わってくる。 だからシーク教徒のお祭には、白人の有力政治家も、ターバンではないがシークの喜びそうな頭巾恰好でパレードに参加する。 しかしそうした宥和政策がテロを容認する過激派とどこまで妥協できるかな?」 

「それにしても移民としてインドからやってきて、カナダの州首相やオタワの主要閣僚になるところをみると、インドからの移民の中には優秀な人達もいるということだろうか。 カナダの政治家も、多様文化政策の一環として、シーク教徒のお祭にも一応協調的だが、パレードへの参加が、パンジャブの過激派を激励することにならなければいいが。 サレーで匂ってくるカレーの香が段々気になってくるなあ」

(07/06/30)

Tuesday, June 19, 2007

政界も夏休み (2007/06/19)

(政界も夏休み)

「間もなくオタワの議会も夏休みに入るが、この会期は怒号と冷笑の渦巻く憎悪の応酬だったなあ。 ああいうのが『カナダ的政治』の御定まりなのかね」

「まさか! しかし嵐が吹くのは何もオタワに限るまい。 永田町でも荒れることはあるだろう。それにしても思い出すのは昔のウォールストリートジャーナルだ。 当時オタワを牛耳っていたのは才気煥発のピエール・トルドーだが、アメリカの新聞記者からみれば、それでも『眠気を催す』と評されたものだ。 そして『オタワよりビクトリアのブリティッシュ・コロンビアの州議会の方がよっぽど面白い』と一刀両断。 新民主党のデーブ・バレットの研ぎすました舌が冴えていた頃だ」

「しかし今のスティーブン・ハーパー首相も『ブリリアントだ』とカナダのジャーナリストは認めているじゃないか」

「それはそうだが、ただ毒気の効いた調味料がピリリと辛過ぎる。 今はエネルギー資源開発と平衡交付金をめぐって大西洋沿岸諸州を敵にまわしているが、その昔ハーパーが野に在った時代にカルガリーから『大西洋沿岸州は敗北主義だ』という毒矢を放ったことには後悔しているだろう。 記者達は忘れっぽくないからね。 何時までも亡霊を呼び戻してくる。 ハーパー自身、ルーツは大西洋沿岸なんだがなあ」

「それにもう一つ。 やはり野党時代に、地球温暖化の警告を毛嫌いしていたハーパーは、『あれはエネルギー産業から金を搾取しようとする社会主義者の陰謀だ』と罵倒した。 ここへ来てブッシュまでが地球温暖化防止策に少し構えを斜めにずらしてきている。 ハーパーも忘れたいところだろうが、意地悪ジャーナリストはカルガリーの古新聞を探し出して、このハーパーの失言を雀蜂のようにブンブン唸らせている」

「そう言えば、この前もトロントの高校生が学校の廊下で同級生に射殺されたが、オンタリオ州首相やトロント市長の『短銃だけでも禁止して』という切なる願いを、『今は悲劇を政治に利用すべき時ではない』とにべもない。 あの能弁多弁な保守党領袖が口をへの字につぐんでいるのは、ハーパーの発言管制が行き届いているからかな」

「それでは保守党の支持率にも影響するだろう」

「保守党は現在40%。 自由党の40%と変わらない。 しかし一枚岩にみえた保守党も、その内側をみれば、アルバータでゼロから始まったリフォーム党、それが発展してアライアンス、そしてハーパーとピーター・マッケイ進歩保守党党首が手を組んで現在の保守大合同が実現した。 だから内紛の火種は消えているわけではない。 そして昨年1月、ポール・マーティン自由党の足並みの乱れに乗じて、少数与党ながら政権を拾った。 そして白馬の騎士ハーパーの颯爽たる登場をみたのだが、それからはや16ヶ月。 そのギャロップにもたるみが出てきてもおかしくない時期だ」

「ステファン・ディオン自由党も、党首の英語がハンディキャップで、それにカリスマにも問題はあるが、ディオンの人気下降も一応底をついた。 これからは上昇の一途だろう。 選挙も『急いては事を仕損ずる』から、自由党もブロック・ケベコアも新民主党も慌てる気配はない。 この分だと総選挙は来年春になるかもしれないよ」

「夏休みで議員諸侯にも熱した頭を休めてもらって、秋からは面目一新、マナーもクールに、言葉も文明人らしく、レディース・アンド・ジェントルメンにふさわしいの討論を再開していただきたいものだ」

(07/06/19)

Monday, June 18, 2007

リッチモンド点描 (2007/06/17)

「飛行機でバンクーバーに入ると、着陸するのは郊外のリッチモンドだ。 といってもバンクーバーの直ぐ隣だから、交通の便はバンクーバー市内と変わらない」

「リッチモンドは、西は太平洋、南北はフレーザー川など三方水で囲まれているから、シーアイランドと呼ばれるが、山も湖もない平らな土地の広がりで、地面を掘ればすぐ水が出てくる。 だから地下室は無理だね」

「一口にバンクーバーの人口は200万と言うが、バンクーバー市そのものは60万。 周辺部を含めての話だ。 リッチモンドは18万。 まだまだ空地や農場がいたる所に拡がっているから、都市として発展する余地は幾らでもある。 国際空港はあるし、バンクーバーの天然の良港にも遠くない」

「バンクーバーの都心部にも三つの橋で直結しているが、リッチモンドの中心部に入ると、漢字の看板が鮮やかな色彩とデザインで街の景観を圧倒している。 日本の繁華街も顔負けだ。 何しろリッチモンドの人口の三分の二はアジア人だからね。 もちろん殆どは中国系だが、日系人の根も深くて長い。 スティブストンと言えば、戦前から日系人が活躍した水産業の本場だが、今でもそのユニークな歴史は力強く生きている。 カナダの日系社会のルーツかな」

「リッチモンドの三分の二がアジア系といっても、そのほかの民族も数多く共存している。 多民族の共存共栄は、言うは易くその実現は難しいものだが、特に文化や宗教の調和は容易ではない。 ところが、リッチモンドではその点ユニークな発展がみられる。 ナンバーファイブロードという比較的短い通りには、仏教、キリスト教、それにターバンに髭面の南アジア系の信徒をはじめ、62の宗教団体がここに本拠を置き、寺院、教会、モスクが並んでいる」

「ユダヤ教とイスラム教が同じ道に並存しているし、ヒンズー教徒とシーク教徒の争いもここではみられない。 道理でナンバーファイブは「天国へのハイウェイ」と称されるわけだ。 こうした寺院や教会を見学して廻るツアーもあるが、これはリッチモンド市が一肌脱いでいるものだ。 異文化を理解し他の宗教に寛容と尊敬をもって接することは、多民族社会の将来に光明をあてることになりそうだ」

(07/06/17)

Saturday, June 09, 2007

G8とカナダ (2007/06/09)

これはデータ不備のため、イノさんに対する私信になりますが、ご参考までに。
===============

北ドイツで行われたG8の集まりも終わりましたが、カナダは、他の大国とならんで、リッチメンズクラブに参加する資格があるのかと、いつも気になります。 

カナダ人の中には、「人口6千万のフランスと似たようなGDPだから」と胸を張る人もいますが、「いや、スペイン並みの小国なんだから」と肩をすぼめる人もいます。 

15年ぐらい前でしたか、日本の新聞に、カナダの経済は、東京都のそれに匹敵すると書いてありました。 東京都は、赤毛のアンのプリンスエドワードアイランドの半分の大きさしかありませんが、誇り高きカナダ人としては「誤報もきわまれり」と信じないことでしょう。
 
1975年第一回のサミットがランブイエの古城で開かれた時、三木首相も参加し、「招待を受けただけでも光栄」と、イタリアとともに喜んだと伝えられましたが、それは日本人記者の自虐的報道だったのかもしれません。 

当時のカナダの首相はトルドーですが、グループから外されたことに地団太踏んだことでしょう。 

当時の彼やカナダの新聞記者達は日本を軽くみていたに違いありません。 これは私がバンクーバーの新聞を読んでの印象ですが、BCの記者は戦前からの日本人蔑視の感覚が刺青のように染み込んでいたので、それがトルドー夫妻にお供して日本に着いてみたら、トルドー訪日の扱いが、セイロンの女性首相訪日と同じ大きさ。 

しかも日本のマスコミはマーガレット夫人に焦点をあてて追いかけていたので、カナダの田舎記者は「失礼な」と怒りました。 

しかしそれがお灸となって日本を見直すきっかけになったのかもしれません。

今度のG8には、中国、インドもオブザーバーとして来ていましたが、それにブラジルも加われば、将来グループが拡大した時、小国カナダは、グループから蹴落とされるのではないかと、カナダの元外相二人が心配していました。
 
それにしても、日本の安倍首相の存在感は、カナダのマスコミを通じて見る限り、希薄なようで、これも気になります。 
 (07/06/09)

Monday, June 04, 2007

カナダこのごろ (2007/06/03)

派兵をめぐる議会での戦い 07/06/03

「保守党が昨年の2月に少数与党ながら政権に就いてからやがて1年半になるなあ」

「少数派政権としては40年前のピアソン自由党政権に次ぐ長期政権だ」

「ハーパー保守党首相も、最初は断固とした姿勢を押し通して、それが一部市民の賞賛するところとなっていたが、、1年も経つと閣僚の出来不出来も目につくようになり、支持率も下がってきた。 といってもまだライバルの自由党のディオン党首の人気が盛り上がらないから、その点に助けられて国民の支持率は五分五分だ。 もし今選挙が行われたらどちらも過半数が取れない。 だから政局打開にはつながらないね」

「保守党内閣の鬼門は環境とアフガニスタンだが、環境相は交替したものの、現在の環境相もアルバータのオイルサンドや石油業界に気兼ねして、『京都議定書は経済的自殺ものだ』と地球温暖化対策を渋っている。 しかし間もなくドイツで開かれるG8サミットを控えて、いつまでもブッシュの後に付いているわけにもいかない。 『アメリカと他のサミット諸国との架け橋になりたい』と言っているが、アルバータの利益擁護が地球の危機よりも優先するハーパー政権だから、グリーンの衣替えは難しいだろうね」

「アフガニスタンへの出兵を決めたのはクレチアン自由党政権の時だったが、2002年以来、カナダ軍の戦死者は56人にのぼっている。 タリバン勢力の強い南部を受け持っていて、他のNATO諸国の大半の派遣軍とくらべて、カナダの犠牲は大き過ぎるから、国民の間でも疑問の声が次第に高まっている」

「ハーパー首相は『カナダ軍派遣に批判するのは非国民的だ』と非難しているが、自身も政局多端の中を縫ってアフガニスタンの戦場に飛んで見えを切ってみせている。 しかしその直後にまたカナダ軍の犠牲者が新たに出たから、折角の見えも効果が薄れたようだ」

「それよりカナダ軍が拘束したアフガニスタン市民を地元政府へ引渡したことについて、カナダ議会で問題になっているね」

「カナダ軍兵士が多額の金を持つ市民に疑いの目を向けて拘束し、そのままアフガニスタン当局に引き渡す。 するとアフガニスタンの当局者が拷問を加えるというんだな。 これがカナダの政治問題になって、保守党内閣の閣僚の答弁が二転三転。 国防相の辞任要求にまで発展したから大変だ」

「それに戦死者の葬式もスキャンダルになったじゃないか」

「そうだ。 ある戦死者の葬式に25,000ドルかかったのに、軍は6,000ドルしか支払わなかった。 戦死者は大抵小さな町の出身だから、町中の人が参加する。 そこで教会や葬儀社ではなく体育館を使わざるを得なかったのだが、これについても国防相の議会での答弁がまずかった。 事実と違う発言をしたから、当然辞任問題だ。 この国防相は元々軍人で軍需産業のロビイストだった。 国防相には不適当と批判されたのだが、ハーパー首相は反対を押し切って登用した。 その首相も、今度はいよいよ更迭に踏み切るんじゃないかな」

「コップの中の嵐どころか、反戦論議の火に油をそそぐ格好のオタワ議会このごろだね」

(007/06/03)

Friday, June 01, 2007

ビジネス短信 (2007/06/01)

ビジネス短信 (07/06/01)

「オタワの国会議事堂の前で、工場に働く勤労者達が最近デモを行っていたが」

「オンタリオとケベックの組合の人達だ。 カナダの製造業の中心で、自動車も衣料品もメーカーがここに集まっているからね。 会社は海外に安い生産拠点を求めて、カナダの製造業の空洞化が進んでいる。 そうなると組合も自分達の死活問題だから、政府の責任を追及するわけだ」

「悪いのはカナダドル高と自由貿易だというのが組合のロジックだが、カナダドルが高くなれば、製造コストにも響いてくるから、輸出もやり難くなる。 今インフレに注意信号が出ているが、インフレを警戒するバンク・オブ・カナダは多分公定歩合を上げるだろう。 その時期は7月かな。 そうなればカナダドルは米ドルに対してさらに高くなる。 今米ドル換算で93セントだが、そのうち米ドルとカナダドルが同じレベルになるかもしれない。 ついこの間まで68セントだったのだが。 過去3ヶ月で11%値上がりしている。 もっともカナダ輸出公社のエコノミストのように『いや、そのうち84セントに下がるよ。 そんな前例があるからね』と冷水をさす人もいるがね」

「カナダドルが強いのは、国内経済の好調を物語るものじゃないか」

「確かに1月から3月にかけてのGDPの伸びは 3.7%だった。 これは米国の0.6%に比べて格段に良い。 それも消費者の購買意欲に支えられてのことだが、市民も今は雇用が安定しているし給料の見通しもいい。 それに将来は別として、金利も今の所まだ比較的安いといえる。 住宅市場の好況も続いているからね」

「それがカナダドル高につながっているのだろうが、製造業のエンジンであるオンタリオやケベックでは、輸出価格が高くなれば、製品の国際競争力が落ちるから心配するのも当たり前だ」

「カナダの製造業のジョブが消え始めたのは2年半前からだが、工場の要員も3年前に比べて25万減った。 それも通貨政策とメーカーに対する税金が重いからだと組合は議論する。 それに通商協定の面でも『政府の交渉は弱腰だ』と不満を隠さない」

「でも失業率は33年来の低さじゃないか」

「それは製造業の分野を除けばの話だ。 レストランや小売店などのサービス産業は人手不足で困っている。 特にアルバータの求人事情は深刻で、最低賃金なんて問題外。 ウェイターの時給でも二桁台でないと応募してこない。 勿論石油や天然ガスなどの資源産業のセクターは人の奪い合いだ」

「その面では二重構造だね、カナダ経済の特徴は」 

(07/06/01)